大数の弱法則

2項分布を例に大数の弱法則について述べる.

2項分布

ある事象 A の起こる確率が p であるとき, N 回独立試行を行って事象 Ax 回起こる確率は2項分布:

f(x)=NCxpx(1p)Nx

で与えられる.また,2項分布に従う確率変数 X について, X の平均 μ と分散 σ2

μ=E[X]=Npσ2=E[(Xμ)2]=Np(1p)

で与えられる.

大数の法則

2項分布に従う確率変数 X から新しい確率変数 T=XN を作る.

確率変数 XN 回の試行の結果,事象 A が起こる回数であったから,それを N で割った T事象 A が起こる割合と考えることができる.

この確率変数 T の平均と分散は,期待値の線型性を利用するとμ=pσ2=p(1p)N と直ちに求まる.

求めた平均と分散をチェビシェフの不等式に代入すると次の不等式が得られる:

1a2P(|Tp|ap(1p)N)

さらに,確率 P() の中の不等式を反転させると,

11a2P(|Tp|ap(1p)N)

となる.

この不等式において a を十分に大きくすると左辺は 1 に近づいていき,同時に Na よりも十分大きくとると右辺の確率 P() 中の不等式の右辺は 0 に近づいていく.

これは,『試行回数 N が十分大きいとき,事象 A が出る割合 T は一定の割合 p に収束する』ことを意味する.この性質を大数の弱法則という.

チェビシェフの不等式はどのような確率分布についても成立するものであったので,大数の弱法則もまたどのような確率分布についても成立する.

参考文献

  • 薩摩 順吉,『確率・統計 (理工系の数学入門コース 7)』, 岩波書店, 1989.